エウラリアの楔 1st fragment CD 『エウラリアの楔』 特設サイト

「はぁー……あぁクソ!!」

ナタリアは一つ大きく悪態をつき、薄暗くなり始めた空を見上げた。
海が飛沫を立てて船を揺らす。
風の強まり具合から、今夜はかなり荒れるだろう事が予測される。

「益々揺れが増すだろうな。お姫様は大丈夫か?キャプテン」

そう言いながら近づいてきたバハルドの手からセルヴェーサ(ビール)を受け取ると、 女海賊は乾いた喉を一気に潤しにかかる。
苦味を帯びた独特の酸味に脳内が刺激され、幾分か落ち着きを取り戻したような気がした。

「姉さんが今いるのはアルバ家だったか」

バハルドの問いかけに、杯から唇を離しゆっくりと頷く。

「……ああ」

「アルバ家といえば、つい先だって当主とその三男が相次いで病死したんじゃなかったか。
エフレムからの情報によると町は今その噂でもちきりだな。
このまま順当にいくと長男が跡を継ぐのが妥当だが、妾腹ゆえ重臣達が大反対しているそうだ」

有能な部下の報告にクク、と笑いながらナタリアは豪快にセルヴェーサを飲み干した。
バハルドもそれに倣い、続いて空になった主の杯を満たす。

「本妻の娘に婿を採って正当な血筋を守りたい保守派と、
長子至上主義の過激派の、絵に描いたような泥沼権力闘争図だな、キャプテン」

「そして、その本妻の娘も現在行方知れずになっている、と。中々面白いじゃないか」

つまりナタリア達はアナスタシアによって【由緒正しき貴族のお家騒動】にまんまと巻き込まれたという事になる。
エフレムの報告によると、エヴルー艦隊の足取りを掴むのも難航しているようだ。
これはいよいよ雲行きが怪しいという他は無い。

「しかし厄介だぞキャプテン。こういった絡みの【荷物】には【死神】が付いて回る」

見かけによらず慎重なところがある副船長はやや神妙な顔をつきでナタリアを見やった。

「なんだ?怖気づいたのか?」

しかし船長の意地の悪い質問には、動じる気配もなく笑い飛ばす。

「ハハッ!まさか。上等だ」

これから起こるであろう戦いの幕開けを予期して、体が高揚するのを感じたのは、 果たしてナタリアの生来の戦好きゆえか、上等なセルヴェーサのせいか……。