エウラリアの楔 1st fragment CD 『エウラリアの楔』 特設サイト

「鍵は……鍵はまだ見つからぬのか!?」

薄暗い一室に若い男の怒声が響く。
室内を行ったり来たりする度に、声の主の上等な革靴がカツカツと小気味の良い音を奏でていた。

「はい。ご命令通り、ご当主様の書斎から何から、お屋敷一体隅々まで調べましたが一向に……」

「っ……この役立たずが!!」

握り締められた拳と張り上げられた声とは裏腹に、青年の顔は青ざめているが、 室内の明かりを落としているため、それに気づく者はいない。

「……セレスティノ様」

セレスティノと呼ばれた青年は、脂汗の浮き出た額をぬぐい、ビノティント(赤ワイン)を一気に飲み干した。
肩まで届く自身の美しい髪を右手で忙しなく弄び、空になった杯を満たし、また煽っては注ぎを繰り返し、 わなわなと唇を震わせている。

「期日は迫っているというのに……あれがなければどうにもならないではないか!」
「ですから私は、あのようなゴルファ(ならず者)を雇うべきではないと……」
「っ……黙れ!!黙れ黙れ!!」
「ひっ!!」

激昂したセレスティノは執事に向かっておもいきり杯を投げつけた。
残った液体が彼の服を汚し、杯は乾いた音を立て、コロコロと床を演舞する。


父であるアルバ伯爵ベルトランが、後生大事に持っていた一つの鍵が忽然と消え、セレスティノは今絶望の中にいた。
このアルバ家の莫大な資産は全てある一室に収められており、 それを開けるには父の持っていた鍵がどうしても必要だった。
生前のベルトランは、美しい銀細工の装飾を施したそれを首飾りにして肌身離さず持ち歩いており、 それは幼い頃からどんなに強請っても、セレスティノには一度として触らせてもらえる事のなかった鍵だった。

唯一触る事を許されたのは、父と正妻の間に生まれた弟。
弟に持たされたそれを取り上げようとすると、決まって父に何度も殴られ、 悔しさと悲しみで泣き腫らした事が数え切れないくらいある。

「……あの女はどこにいる、リカルド」

興奮とアルコールと、過去の記憶がない交ぜになり、呼吸が荒くなったセレスティノを見やり、 リカルドは恐る恐る尋ねた。

「あの女……といいますと?」
「アナスタシアだ。  あの女狐、父上の葬儀が終わってから一度も私の所に来ないではないか」
「それが……いつのまにやら出奔したようで。しかしながらあれは当家の一使用人。
 セレスティノ様が目をおかけになるような類の女では……」
「馬鹿者!!!あれは父上の女だぞ!!なぜ注意深く見張っていない!!  ああくそ!!どいつもこいつも!!俺の周りには無能が服を着て歩いているような奴らばかりか!!!」

セレスティノは空になったビノティントの瓶を振り回し、豪奢な調度の椅子にドカリと身を沈めた。
端整な顔に、薄暗い燭台の明かりが反射し、恐ろしいくらいにその美貌が際立っている。
リカルドは成す術もなく、主人からの次の言葉を待った。

「……リカルド。そうだリカルド、弟の墓を暴け。」
「は?何ですと?」

主人から発せられた言葉は、およそリカルドの待っていたものではなかったため、 忠実な執事は驚愕を隠し得る事ができない。

「死体を調べろと言っている。あやつの遺体にもしかしたら何かが隠されているかもしれぬ」
「は……はっ。しかし、弟君のご遺体を暴くなど私には……」 「それから、アナスタシアの行方も追うのだ。……それと……」 「セレスティノ様!!」

次から次へと発せられる主人の命令に、抗議の声を上げるリカルド。
セレスティノは青ざめた執事を一時見やるも、アルコールにうかされたとは思えない程冷徹な瞳で言い放つ。