エウラリアの楔 1st fragment CD 『エウラリアの楔』 特設サイト

親友であるアルトゥロの窮地を救うことができなかった自責の念から、ベルトランは宮廷を退き、元々の自身の領地へ帰り、そこで隠遁生活を始めた。
2大派閥による争いが終わり、人々の記憶からアルトゥロの存在は薄れかけていた。



ある日、気まぐれに訪れた自領の道端で、ベルトランはアルトゥロによく似た少女と出会う。

親友と同じ顔をした金髪の少女は、もう何年も着古しているかのようなボロボロの麻布の服を着ており素足で大地を踏みしめている足のツメはあちこちひび割れていた。
あまりのみすぼらしさに、まさかとは思ったが、少女の目は力強く、親友と同じ海の蒼。


アルトゥロには妻と二人の娘がいた。
突然の処刑が決まった日、ベルトランはすぐさまアルトゥロの家族の元へ馬を走らせた。
しかし、誰の手が回ったのかは容易に想像がつくが時既に遅く、彼の屋敷は方々が荒らされており猫の子一匹もそこにはいなかった。

ベルトランは自分の先読みの甘さを呪い、獄につながれたアルトゥロに『君の家族は安全な場所にいる』というのが精一杯だった。
アルトゥロが殺されてからも、ベルトランは何年も彼の家族を探したが、ついに見つける事は叶わず、生存は絶望的だろうと思っていた。


そんな折、目の前に現われた少女に、恐る恐るベルトランが名を尋ねると


「許されよ。見知らぬ人間とむやみやたらに口を利いたら姉上に叱られるのでな」


と、少女が口をつぐんだので、その小さな手に多額の駄賃を握らせた。


「それでは、姉君の所へ案内してはくれまいか?君と君の姉上は、もしかしたら私が探していた人たちかもしれないのだよ」


利発そうなその少女は、一瞬躊躇ったようだったが、ベルトランの真摯な態度に打たれたのか、


「では、姉上の所へ案内しよう。しかしお気遣いは無用。施しはいらぬゆえその金貨を収められよ。」


と、その年齢からは考えられぬ程毅然とした態度で金貨を尽き返しながら言い放った。
ベルトランはその物言いに一瞬面食らったが、少女が

『受け取らぬというのであればこちらも案内などせぬ』

と一歩も譲らないので、苦笑しながら自身の与えようとした金貨を懐にしまった。

少女の幼い手に引かれたベルトランの案内された先は、あろう事か場末の娼館だった。
もし自分の想像が的中しているとしたら、なんということだとベルトランは頭を抱えた。

少女に呼ばれて出てきた女の姿を目の当たりにし、ベルトランは自身の不手際を心から呪った。
かつて自分の愛した女性で、遠い昔に親友の妻になった女が、出会った時のまま、
憧れを抱いていた美しい赤毛をなびかせてベルトランの前に再び姿を現したからだ。
こうして、ベルトランは長い間探してきた親友の遺児達を、ようやく自分の屋敷に招きいれることができたのだった。