エウラリアの楔 1st fragment CD 『エウラリアの楔』 特設サイト

「………………………………………………………………」

「大丈夫か?お頭。顔色がものすごく悪い上に口が半開きだぞ。目の焦点も定まっていないし」

春梅は、今まで見た事もないようなナタリアの衰弱ぶりに驚きながら、しかし表情には出さずにその額にそっと手をあてる。


「……春梅、悪いが……頭痛に効く薬をくれないか?」


苦しそうな声でナタリアが呻く。
大量の汗が顔から吹き出しているので、季節外れの発熱かと思ったが、どうもそうではないらしい。
船長の美しい顔を伝う汗はそれはそれは冷えきっており、細い肩はガクガクと震え、今にも嘔吐しそうな状態だ。


「わかった。ついでにいい香りの茶も調合してくるから待っていろ。吐いて楽になりそうなら吐いてしまえ」

その言葉に弱々しくこくりと頷くナタリアを見、春梅は持っていた回路図を机上に置いてすぐさま医務室にかけていった。


「相変わらずキザな野郎だ。反吐が出る」


と、吐き捨てたのは手紙の受け取り主であるナタリアではなくバハルドだった。
ナタリアの頭痛の原因は、フレイヤという数珠掛鳩の持ってきた一通の手紙に他ならなかった。
『まったくだ』とでもいうような表情でバハルドを見たナタリアは、胸のむかつきを抑えるため大きく深呼吸をくりかえす。


「「ねぇねぇクリス!せんちょうどこかにおでかけするの?最初からお手紙読んでもらっていい?」」


大人たちの心情を知ってか知らずか、子供たちはいつでも残酷なくらい無邪気である。
投げ捨てられた手紙をまじまじと見つめても、まだあまり難しい字は読めないのだという二人のために、 ひとつ咳払いをして声をやや大きめに張るクリス。


「ああ、いいよ。コホンッ!……ええと、『未来の我が妻ナタリア殿』……」

「うわぁぁぁ!!!!!!!」


ナタリアが叫び、その場にしゃがみこむと、バハルドがクリス達の方にやってきて手紙を取り上げビリビリと、 それこそ一文字区切りの細さで破いているのではないだろうかというくらいに粉砕していく。


「「「あーーーー!!」」」


クラウディア、ダムア、ダヒカは揃って抗議の声をあげた。


「……それ、落ち合う場所とか書いている大事な手紙じゃなかったのか?」


クラウディアは見るも無残に破き捨てられた手紙の屑をみて、少しむくれた声でバハルドに言った。
クラウディアの乳母であるアナスタシアが会合を指定している男、 海軍将校レオン・イグナシオ・エヴルーはナタリア達がクラウディアを託された直後から、 【国境線周域の海賊討伐】と銘打って広域を移動しつづけていた。
それに呼応するようにこちらも息を潜めるように多くの船団が忌避する海域ばかりを選び所在をひた隠しにし最終的にこの【基地】に停泊していたが、 つい先日ようやくレオン方から初めて打診の手紙が届いたのだった。


「大丈夫だ。キャプテンとアイツが初めて会った場所なら、一つしかない」

「「バハルドは知ってるのー?」」


双子たちがかけより、その大きな体を下から見上げると、先程まで不機嫌だった顔が更に不愉快そうに歪んだ。
そして、子供たちの質問に答える事なく部屋を出ていってしまった。