エウラリアの楔 1st fragment CD 『エウラリアの楔』 特設サイト

「ああ。よーく知っていますよ。なんせ僕達もいましたからねぇ。『そこ』に」


バハルドと入れ替わりに彼と同じ肌の色をした男が入ってきた。
すれ違う際バハルドはその男に何か言おうと一瞬口を開いたが、男の肩を軽く叩きそのまま去っていった。


「「エフレムー!!いつ帰ってきたのー!?」」


ダムアとダヒカはエフレムと呼ばれた見慣れぬ若い男に飛びつき、その両肩にしがみつく。
肌の色はバハルドと同系統だが、バハルドとは違いその男の体格は驚くほど華奢だった。
腰に小ぶりなアルパ(ハープ)をひさげた吟遊詩人のような風貌に白い髪。
この船のクルーだろうが、やはりここにはおかしな人間ばかりが乗っているな、とクラウディアは首をひねった。


「さっきね。ご無沙汰しておりますキャプテン」


双子たちをその細い腕の上にしっかりと座らせ、深々とおじぎをしながらナタリアの方へ向かう。


「ああ、ご苦労だった」


青い顔は相変わらずだが、久しぶりの部下との再会にナタリアの顔は僅かながらほころんだ。


「いやぁ、長いこと内地にいたせいか体がなまってなまって。やっぱり海はいいですねぇ」

「そうか、で、春梅には会ったのか?お前の帰還を心待ちにしていたが」

「春梅さんなら医務室でニヤニヤニヤニヤしながら怪しげな薬を調合してましたよ。 話しかけるのも怖いので頼まれていた薬剤だけ、こっそり置いてきました。 でも、あんな劇薬ばっかりどうするつもりなんでしょうね?春梅さん」

「そ……そうか。なら…………いい……」


二人の会話中手持ち無沙汰になっていたダムアとダヒカが同時にエフレムから飛び降り、 何をするでもなく突っ立っていたクラウディアの手を引いてエフレムの前に連れてくる。


「クリス、エフレムなの。チョウホウインっていって、色んな所を行ったりきたりしているの!」

「エフレム、クリスだよ。キゾクのオヒメサマで、大きな箱に入ってやってきたハコムスメだよ!」

「「二人とも、ハジメマシテしてー!!」」


向かい合ったクラウディアとエフレムを挟む形で間に立つダムアとダヒカ。
クラウディアが身構えていると、ニコニコと笑いながら手を差し出してエフレムのほうから口を開く。


「やぁ、初めまして。【お噂】はかねがね。僕はエフレム」

「ク……クラウディアだ」


やや伏目がちにエフレムの方をみようとせず、両拳を握り締めているクラウディア。
エフレムは唇の片方をニィとつり上げ、握手するために差し出した手で、クラウディアの細い顎を乱暴にグイと掴んだ。


「な!!何をする無礼者!!」


思いがけない行動に驚き、その手を跳ね除けようとするが、華奢な体躯からは想像もできないような力で反対の腕も押さえつけられる。


「う……っ」


「素敵な自己紹介ありがとうございます。僕みたいな真っ黒な手とは握手もしたくないってわけですか。 いいんですけどねぇ別に。僕だって白人貴族なんか大っ嫌いですし」

「っっ!!??」

「キャプテン、よくもまぁこんなやっかいな【お荷物】を引き受けたもんですねぇ。 きわどい情報がバンバン入ってきてますよ。特に……なんでしたっけ、ああそうだ、アルバ家の新当主。 前の当主と跡取りを殺すのに、素人のくせに裏の人間を使ってしまったもんだから、尻に火がつきはじめてますよ。 血眼になってそこの【お荷物】を探しているようです。 まぁ、その分キャプテンにかけられた賞金もガンガンあがって僕としては箔がついたみたいで嬉しいですけどねぇ」


驚愕の表情を浮かべるクラウディアの顔がみるみる青白くなっていく。
押さえつけられた体も、知りたくもない事実もすべて明るみにさらけだそうとする眼前の男がただただ憎かった。


「エフレムエフレム、いたいけな子供をいじめるんじゃない」


あーあ、と盛大にため息をついたナタリアがもうやめろと二人の間に割ってはいる。
クラウディアからエフレムを引きはがし、荒い呼吸を繰り返し出したクラウディアの肩をやさしくなでつける。


「どーどー、クリス、落ち着け」

「せんちょー、クリスはお馬じゃないよ?」
「エフレムもクリスをいじめちゃ駄目!」


ダムアとダヒカに責められて、エフレムはクラウディアに向き直り、クスリと笑う。


「ごめんねぇ【ク・リ・ス】僕性格悪いんだよねぇ。ふふ」

「…………」


クラウディアはエフレムをキッと睨みつけるが、エフレムのほうは飄々とした態度を崩そうとしない。


「で、そろそろお前の持ち帰った情報を教えてくれないか、エフレム」


そのやりとりに若干辟易したナタリアが、エフレムに報告を促す。
実際、レオンから連絡が来た以上ナタリア達に残された時間はもうあまりないと言っても良い。


「わかりましたキャプテン。でも、その前に早く赤帝号を出航させた方が良いですね。 【イラー・アルマウト】がこっちに向かっていますよ」

「……何?」


【イラー・アルマウト】という単語を聞いた瞬間、ナタリアの表情はこれまでと一変した。
険しい、という表現では大人しいほど苦悶に満ちたその顔に、クラウディアはひどく不安感を覚えた。


「「しにがみの乗る船…………」」


声のする方を見ると、ダムアとダヒカも普段の無邪気な顔を強ばらせ、互いの手と手を握り合っている。


「ダムア、ダヒカ、春梅を呼んできてくれ。クリスはバハルドを呼んできてほしい」


ナタリアは双子とクラウディアにそれぞれ言いつけ、三人ともそれに従った。
部屋にナタリアとエフレムだけが残されると、エフレムが面白そうに主に言う。


「こういった絡みの荷物には【死神】がついてまわる……か。バハルドの言う通りですね。キャプテン」